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2013.06.01 男たちの手稲山 その一 参加者 Hiura / Uenishi / Seguchi 天気 快晴 【登りとは】 何故登るのか。眺望やダウンヒルの爽快感を求めて、等々の答えが予想される問いではあるが、しかし答えはこれらのいずれでも無いと私は考える。帰ってシャワーを浴びた後のビールが旨いとか、そういう事では無いのである。 登りは言わば目的そのものであって手段ではあり得ない。トレーニングとかそういう事ではなく、ただ登るために我々は登るのである。何故登るのか。そこに山があるから。否、そこに自身の限界を見るためである。筋繊維が断裂する音を聞き、呼吸器を限りなく痛めつけ、我々は限界を知る。辛く苦しく何が何だか分からなくなって頭が真っ白になって、ただペダルを回すための一個の機械と化す、その領域にこそ登りの本質があり、言わば偏執狂的な倒錯した快感があるのである。最先端に近付くこと、エッジの上を進み続ける事こそが登りの過程である。慢性的な低酸素状態に置かれるために起こる一種のトランス状態、座禅と同じ事が起こっているというのも真実の一側面ではあると思われる。 登り続ける中、我々は限りなくシンプルになっていく。自身から様々なものが削ぎ落とされていく。決して体重的な意味では無い。煩雑な思考や情報はシャットアウトされ、我々は一個の思想であり概念に近づいていくのである。ギリギリの際を進み続ける中に明確になっていく思想、私の場合はただ一つ、克服せよ、である。 自分に打ち勝て、などという話ではなく、エッジに一歩近づく恐怖と恍惚を克服する、それである。限りなく最先端に近付いていく行為である。そのためにこそ我々はただ一個の機械でなくてはならない。この感覚こそが登りの中毒性であり、より強い刺激を求め続ける登り好き達なのである。満足感を求めているのではなく、むしろ飢餓感の為に我々は登る。登りは好きだが、取り分け得意という訳ではない、という言い訳である。 ちなみに私が帰って昼飯と共に飲むのは「ブルガリア のむヨーグルト」である。理由は、何となく体に良さそうだから。
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【黒猫探偵団機密資料/out of game】 excavation_report.pdf 平成23 年5 月9 日 発掘調査報告書 ナインクルーズイベント企画部発掘調査隊報告書第2集 01 目次 第Ⅰ章 調査の経緯…………………………………………………………………2 第Ⅱ章 遺跡の位置と環境…………………………………………………………3 第Ⅲ章 調査区の調査方法…………………………………………………………4 第Ⅳ章 検出遺物……………………………………………………………………5 1 縄文時代の遺物…………………………………………………………………5 第Ⅴ章 まとめ………………………………………………………………………9 02 第Ⅰ章 調査の経緯 みなかみ町湯原地区工事は、湯原地区のほぼ全域をレジャー施設建設用地とするため、 該当事業計画区画内に埋蔵文化財の存在を確認するための調査を実施した。 みなかみ町には矢瀬遺跡、梨の木平敷住居跡があり、 湯原地区西部の猿ケ京温泉には徳川埋蔵金伝説も残されている。 湯原地区周辺にも埋蔵文化財包蔵地の可能性が考慮されることから、発掘調査を実施することとなった。 03 第Ⅱ章 遺跡の位置と環境 今回発掘調査が実施され、かつ埋蔵文化財が発見されたのは湯原東の緩やかな斜面地帯である。 遺跡所在地は、斜面地帯の中にある平坦面上に位置している。 当遺跡周辺には、今まで発見されているものといて月夜野において矢瀬遺跡、梨の木平敷住居跡など、 縄文時代を語る遺跡が存在しており、このほかにも遺跡群の存在については可能性が指摘されていた。 今回湯原における埋蔵文化財の発見により、その可能性が真実であったことがわかり、 そのことが世間に発覚することで埋蔵文化財包蔵地であることが明確になることが明らかとなった。 写真1 調査区画 04 第Ⅲ章 調査区の調査方法 まず調査区について厚さ10~20cm の土を人力ではぎ取ったところ、土直下より土器を複数認めることができた。 この段階で調査区周辺に広がっていると判断し、さらに複数の調査区を設定し調査を行ったところ(※1)、 その場所でも土器の出土が認められたことから、大規模な遺跡群と判断し、 周辺地域全体を埋蔵文化財包蔵候補地として設定し、その一部において調査を実施した。 写真2 発掘前の該当区画 05 第Ⅳ章 検出遺物 1 縄文時代の遺物 (1)土器 ST1(写真3・4) 調査区画内で発掘された土器の破片。壷の側面部と思われる。表面には粘土で形作った模様がある。 表面にはガラス状の細かい粒子が見られる。 写真3 ST1 発掘時 06 写真4 ST1 表面 07 ST2(写真5・6) 調査区画内で発掘された土器の破片。壷の側面部と思われる。 表面には縄を押しあてて形成したと思われる跡が残っている。 ST1 同様、表面にガラス状の細かい粒子が見られることから、同地域の粘土から製作された可能性が高い。 写真4 ST2 発掘時 08 写真5 ST2 表面 09 第Ⅴ章 まとめ 発掘調査した区画からは、今回比較的小規模な調査にも関わらず、縄文時代の遺物が出土した。 湯原西部での別調査区画でも同年代の遺物が発見されていることから(※1)、 湯原地区全域に大規模な諸遺構があると考えられる。 今回の調査では調査は小規模に留める旨の通達を受けているため、 遺物が少数発見された段階で調査は終了となったが、 区画全体を発掘すれば、より多くの遺物、および遺構が発見されたであろうことは想像に難くない。 湯原で埋蔵文化財が発見されたことで、レジャー施設建設地として重大な問題が発生したと認めざるを得ない。 埋蔵文化財包蔵地であることを届け出した場合、調査・発掘のために計画が大幅に遅延することは明白である。 また、その範囲も、湯原全域に遺跡が分散していることが他報告書によって明らかになっているため、 工事地区を一部ずらせば対処できる問題の規模ではない。 以上のことから、計画遂行のためには今回の調査結果は関係省庁に届け出を出さず、 情報は全て処分し隠滅することが望ましい。 註 (1)別調査区画の報告書に関しては、別調査隊による報告書第1、第3集を参照のこと
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Report.15 長門有希の憂鬱 その4 ~過激派端末の強襲~ 部室での会話の後、なし崩しに涼宮ハルヒと朝倉涼子は、一緒に帰ることになった。 「何であんたと一緒に帰らなあかんのよ……」 【何であんたと一緒に帰らなきゃならないのよ……】 「まあまあ。たまにはええやん。」 【まあまあ。たまには良いじゃない。】 ふてくされたようなハルヒと対照的に、涼子は上機嫌に見えた。 涼子は、見かけ上、喜怒哀楽がはっきり現れるように設定されている。その点では長門有希と対照的。しかしその内実は、あくまで基礎的な人間の観測データに基づき計算された、『恐らくこのようなものだろう』というモデルを基に構築されたものに過ぎなかった。過ぎなかったが。 二度の『死亡』と『復活』を経て、今や涼子は人間に存在する『感情』に限りなく近いものを獲得した。その『感情』が、涼子を上機嫌な表情にさせていた。涼子の誘導は成功した。ハルヒは、有希に会いたいと思っている。今や、有希に対する負の感情は、わずかばかりの気まずさと罪悪感を残すばかりとなっていた。 ハルヒと涼子二人の帰り道。二人は他愛のない話に裏話を追加した、意外とためになる話をしていた。 どこか寄り道でもしようか、と話していた時、急に空の色が変わった。そして同時に、涼子にある異変が起こった。情報統合思念体に接続できない。そして襲い掛かる高負荷。 (っ……!? 何、これ!?) 彼女の五感が、次々に感度を落としていく。そして緩やかに拘束される身体能力。 (普通の人間と同じくらいしか能力が無くなってる……っ!) ハルヒも異変に気付いた。 「ちょ……! 何、これ……!? 急に空が変な色に……それに、物音もせえへんようになって……」 【ちょ……! 何、これ……!? 急に空が変な色に……それに、物音もしなくなって……】 灰色に塗り潰されたような世界。まるでハルヒが生み出す閉鎖空間のよう。生命の気配が感じられないことも同じ。しかし、決定的に違っていることがあった。そこに『神人』の気配はない。この空間の発生は、ハルヒの能力によるものではない。 (これは……空間封鎖!?) 空間封鎖は、涼子達、情報統合思念体の勢力が得意とする手段。広く言えば、情報統合思念体と起源を異にする広域帯宇宙存在も空間封鎖を行うが、彼らの手法は術式が違う。 今のこの空間封鎖は、光学的には偽装しているが、紛れもなく涼子が良く知る勢力の手法だった。 (そんな……情報統合思念体の一派の行動だったら、わたしが感知できないはずないのに……!) 今の空間封鎖は、全くの不意打ちだった。焦る涼子。涼子はハルヒの手を取った。 「ちょっと!? 何すん……」 言いかけたハルヒの言葉が止まる。ハルヒの手を取った涼子の顔には、焦燥の表情が浮かんでいた。そして、冷や汗で、顔も手のひらも、じっとりと濡れていた。 「……涼宮さん。わたし、今の状況は、わたし達がはぐれたらあかんような気がすんの。」 【……涼宮さん。わたし、今の状況は、わたし達がはぐれちゃいけないような気がするの。】 「……分かった。」 涼子のただならぬ気配に、ハルヒもおとなしく涼子の手を握り返す。命の気配が感じられないこの空間で、握り締めた掌だけが、命の存在を伝えている。 『江美里! 江美里っ! 応答して!!』 涼子は協力者である別のインターフェイスに交信を試みるが、応答はない。 (まずい……完全に孤立した……) しかも現状は、涼子は宇宙的な力をほとんど使用できない。身体能力は、辛うじてハルヒの能力に勝っている程度。人間の枠を超えた能力は使えない。例えば、もし肉体を損傷しても、即座に修復することはできない。 「誰かに連絡を……」 「あかん! 携帯は圏外やわ!!」 【だめ! 携帯は圏外だわ!!】 ハルヒは、携帯電話の画面を睨み付けながら答えた。 (この状況は……わたしを無力化させるため……? だとしたら、相手の目的は……) 涼子は、たとえ情報統合思念体と接続していなくても、通常の人間以上には高度な思考力を持つように設計されている。ただし、この設計は、あくまで不測の事態に対処するために設けられた『セイフティネット』。この設計が役に立つような事態は、本来あってはならない非常事態。早急な事態への対応が求められる。 そして涼子は思い当たった。 涼子を無力化することを、実行し得るのは誰なのか。 涼子を無力化することで、得をするのは誰なのか。 ……すなわち、この事件の首謀者は誰なのか。 (これは……過激派……! まずい! あいつらの目的は……っ!) その時涼子は何かに気付いた。そして迷わずハルヒの腰にタックルした。 「おわ……っ!」 不意にタックルを喰らい、盛大に地面に叩き付けられるハルヒ。 「痛いなー、もう! いきなり何すん……」 怒鳴りかけたハルヒの声が止まる。ハルヒの腰にしがみつく涼子は、衣服の肩の辺りを赤く染めていた。 「ちょっ、どないしたん!?」 【ちょっ、どうしたの!?】 「涼宮さんの死角から、何かが飛んできて……」 起き上がりながら答える涼子。ハルヒを助け起こすと、何かが飛んできた辺りを睨み付ける。そこには何の痕跡も見付ける事はできなかった。あるのはただ、誰もいない、何もない空間。 しかし、涼子は気付いていた。 飛翔体の軌道。出現時間。出現場所。飛行速度。 これらはすべて、涼子がその存在に気付き、取るべき行動を判断し、実行した時に、ちょうど涼子の肩を掠めるように設定されていた。 (これは……涼宮さんじゃない、わたしを狙った攻撃!?) 『涼宮ハルヒの観測と保全』が任務である今の涼子は、もしハルヒに危害が加えられるような事態になれば、最優先でハルヒを守る行動を取るであろうことは、容易に推測できる。だから、その危機がより切迫しているほど、涼子は確実に、ハルヒを守る行動を取る。場合によっては、身代わりに攻撃を受けることもあるだろう。 それが『奴ら』の狙い。 通常の涼子なら、そのような切迫した状況でも、難なくハルヒも自分も守れる。 では、情報統合思念体のサポートなしでは? 端末単体の能力で対処せざるを得ない状況では? 涼子が危機を『回避』する可能性を奪うことができる。確実に攻撃できる。 そしてまた、これはハルヒにとって強力な精神攻撃ともなる。 涼子は、ハルヒを庇って負傷する。そうして損傷を蓄積したところで、止めを刺す。 ハルヒから見れば、ハルヒを庇ったせいで涼子は怪我をし、そして殺害されることになる。 『自分のせいで人が苦しみ、死んでしまう』 これはハルヒに、己の無力さと自己の存在意義を強く意識させる事象となる。自らに『力』と『存在意義』が欲しいと強く願ったハルヒからは、間違いなく、巨大な情報爆発が観測できる。 これが『奴ら』のシナリオ。合理的で、的確な洞察。 また飛翔体。今度はハルヒの正面から。 涼子は飛翔体の射線上に躍り出ると、手ではたいて飛翔体の軌道を変えた。涼子達の背後にあった庭木の天辺が切り落とされた。 (随分と舐められたものね……さっきは不覚を取ったけど、いくら情報統合思念体との接続が切れてるからって、そう簡単にやられてたまるもんですか! これでもわたしは、『あの』長門有希の代理者なんだから!) 『奴ら』の思い通りにはさせない。たとえこの身が果てようとも、ただではやられない。少なくともハルヒだけは逃がしてみせる。それが朝倉涼子の意思。そして長門有希の意思。涼子は覚悟を完了した。 「涼宮さん、わたしのそばから離れんとってよ。」 【涼宮さん、わたしのそばから離れないでよ。】 涼子は、ハルヒを背に庇う位置に立ちながら言った。 「朝倉、あんた……今さっきの、アレ、どうやってやったん……!?」 【朝倉、あんた……今さっきの、アレ、どうやってやったの……!?】 ハルヒは、恐怖と好奇心が7:3の割合で混合された瞳で、涼子に尋ねた。 「それは……ふっ!」 答えの途中で涼子は両手を身体の前で素早く広げた。後方にあるブロック塀に、貫通痕が二つできる。 「実は少々、武術の心得があって……はっ!」 右足でアウトサイドキック。後方の電柱がえぐられる。 「少々ってレベル違(ちゃ)うやろ、コレは!?」 【少々ってレベルじゃないでしょ、コレは!?】 ハルヒのツッコミ。涼子は、前方から視線を外さず答える。 「……カナダに行ってる間に、マーシャルアーツの先生の下で武者修行を……やぁっ!」 左手で飛翔体を掴もうとするが、失敗。後方で植木鉢が弾け飛び、窓ガラスが割れた。 (だめだ……全然見えない。せめて何が飛んで来てるのか分からないことには……) それに、肉体の損傷を修復できない以上、素手での対処にも限界がある。涼子の手は、飛翔体を弾いた時の損傷で、所々出血している。損傷の蓄積は望ましくない。 (ここは涼宮さんの能力に賭けるしかないか。少なくとも今のわたしの能力では対処できないわね。) 「朝倉……大丈夫? その手……」 心配そうに聞いてくるハルヒに、涼子はすかさず誘導を仕掛けた。 「問題ない……って言(ゆ)うたら、嘘になるかな。正直、あんまりよろしくないわ。せめて、飛んで来(き)とぉ物(もん)を止めるか掴むかできれば、それ使って叩き落とせるんやけど……残念ながら、成功のイメージが湧かへんわ。」 【問題ない……って言ったら、嘘になるかな。正直、あんまりよろしくないわ。せめて、飛んで来てる物を止めるか掴むかできれば、それ使って叩き落とせるんだけど……残念ながら、成功のイメージが湧かないわ。】 「成功の……イメージ……」 ハルヒは思案顔で呟く。 (さあ、想像して、涼宮さん。成功のイメージを……わたしが、飛んでくる『何か』を掴む姿を。) 次々に飛来する飛翔体。涼子は両手両足をフル稼働させて処理していくが、次第に処理が飽和していく。 真正面に飛翔体。近い。よけられない。捌き切れない。そう思った時、涼子に見える景色がスローモーションになる。 (……! 見切った!) 涼子は両手で挟むように、飛来する『それ』を掴んで受け止めた。 「……鉄筋!?」 ハルヒが恐る恐る覗き込み、驚いた。飛翔体の正体は、コンクリート構造物の補強に使われる『鉄筋』だった。 涼子の誘導は功を奏した。ハルヒは『成功のイメージ』を作り上げた。それはハルヒが、『そうなること』を願うことに他ならない。かくしてハルヒの望み通りに周囲の環境が書き換えられ、涼子は飛翔体を掴み取ることに成功した。 「こんな物(もん)が次から次へと飛んで来てたんやね……」 【こんな物が次から次へと飛んで来てたのね……】 言い終わらないうちに、涼子は飛んでくる鉄筋を、右手に持った鉄筋で真下に叩き落とした。激しい金属音と共に、足元に転がる鉄筋。素早く涼子は落ちた鉄筋を拾う。両手に鉄筋を持った涼子は仁王立ちになった。 一度成功のイメージを作らせてしまえば、後は話が早い。情報統合思念体との接続は切れたままでも、今はハルヒの情報改変能力の援護を受けている。ハルヒが成功のイメージを思い描く限り、涼子に『負け』はない。涼子は両手の鉄筋を巧みに操り、的確に飛来する鉄筋を叩き落としていく。 (こうやって物質に干渉してきている以上、『奴ら』も何か端末を介して情報操作を行っているはず。そいつを見付けてどうにかしないと。) 涼子は感覚を研ぎ澄まして、周囲の気配を探るが、ここは相手の作り出した空間。かつて涼子が自ら言ったように、この空間は、相手の情報制御下にある。相手の意のままに操れる。通常時ならともかく、今の涼子では、索敵は不可能。ここもやはり、ハルヒの力を借りるしかない。涼子はハルヒに話を振る。 「誰か知らんけど、相手も相当卑怯で臆病やと思わへん? 姿も見せへんで、こそこそ女二人を物陰から狙い撃ちなんて。」 【誰だか知らないけど、相手も相当卑怯で臆病だと思わない? 姿も見せないで、こそこそ女二人を物陰から狙い撃ちなんて。】 「そうやね……確かに、かなりヘタレかもしれへんわ。」 【そうね……確かに、かなりヘタレかもしれないわ。】 ハルヒが話に乗ってきた。涼子は更に話を続ける。 「こういう時、敵は姿を現して、主人公にボコボコにされるべきやと思わへん?」 【こういう時、敵は姿を現して、主人公にボコボコにされるべきだと思わない?】 「主人公……」 「どう見ても、わたしらが主人公やんな? 常識的に考えて。」 【どう見ても、わたし達が主人公じゃない? 常識的に考えて。】 「……確かに、この状況では、悪役はあっさり姿を見破られて、ボコボコにどつき回されるんがオチやわ。」 【……確かに、この状況では、悪役はあっさり姿を見破られて、ボコボコにどつき回されるんがオチだわ。】 涼子は畳み掛ける。 「ほな、わたしらで、その状況を再現してやらへん?」 【じゃあさ、わたし達で、その状況を再現してやらない?】 ハルヒは、100Wの笑顔で答えた。 「うん、それ賛成!」 再び索敵に集中する涼子。今度はハルヒの能力の援護付きで。 「……そこっ!」 言うや否や、涼子は何もない空間に、手にした鉄筋を投げ付ける。メジャーリーガーのバックホーム返球のごとく、一直線に何もないはずの空間を貫く鉄筋。中空で鉄筋が、何かに当たったかのように弾ける。すかさず走り込んだ涼子が、その空間を鉄筋で殴り付ける。しかし何かの力に弾き飛ばされ、涼子は元いた場所まで押し戻された。 「……手応えあり。」 涼子が殴り付けた空間が歪み、人型を取る。 「…………」 絶句するハルヒ。姿を現した攻撃者をしばらく呆然と見つめていたハルヒは、ぽつりと呟いた。 「……ねえ、朝倉。言(ゆ)うても良い?」 【……ねえ、朝倉。言っても良い?】 「どうぞ。」 「……あたしら、こんな奴に苦しめられとったんやな。」 【……あたし達、こんな奴に苦しめられてたのよね。】 「そやね。」 【そうね。】 「……何(なん)か、めっちゃ腹立ってきたんやけど。」 【……何(なん)か、すごく腹立ってきたんだけど。】 「その反応は、たぶん正しいと思うわ。」 「……あたしら襲うより、銀行かどっか行った方がええと思わへん?」 【……あたし達襲うより、銀行かどっか行った方が良いと思わない?】 「ある意味、悪役らしい格好と言えなくもないとは思うかな。」 「……ねえ、朝倉。こいつ、しばいて良い?」 「危ないから、下がっとって。」 【危ないから、下がってて。】 「……どつき回して、蹴り倒して、大阪湾に沈めたろか思うんやけど。」 【……どつき回して、蹴り倒して、大阪湾に沈めたろかと思うんだけど。】 「代わりにやっとくから。何しよるか分からへんから、下がっとって。」 【代わりにやっとくから。何してくるか分からないから、下がってて。】 「……ケツの穴から手ぇ……」 「女の子が『奥歯ガタガタ言わす』とか言わない。それに、女かもしれへんで?」 【女の子が『奥歯ガタガタ言わす』とか言わない。それに、女かもしれないわよ?】 「……女やったら、ヒィヒィ言わす。」 【……女だったら、ヒィヒィ言わす。】 「えっちなのはいけないと思います。」 姿を現した攻撃者は、覆面姿だった。性別は分からない。覆面が完璧だったから。 『奴』は『ストッキング』で覆面していた。 ――変態が、そこにいた。 女子高生二人組(うち一人は、両手に鉄筋を持っている)と、女性用の下着であるストッキングで覆面した人型が対峙する。人間の言葉で言うと、非常にシュールな画だった。 覆面の攻撃者は、無言で手らしきものを涼子に向けて突き出した。途端に、攻撃者の背後に鉄筋が数本出現し、涼子に向けて撃ち出された。涼子は両手の鉄筋で、それらを残らず叩き落とす。人型が間合いを取りながら数度、それが繰り返された。 こちらの攻撃の届かない距離まで離脱して射撃してくることを感知した涼子は、させじと素早く間合いを詰めて、鉄筋で殴り掛かった。その攻撃を、瞬時に手らしきものの中に出現させた鉄筋で防ぐ攻撃者。もう片方の鉄筋で殴りつけようとする涼子に、今度は攻撃者がもう片方の手らしきものに鉄筋を出して殴りつける。涼子は攻撃を中断し、繰り出された攻撃を防がざるを得なかった。 そうして数度、鉄筋での攻防が続いた後、両者はいったん離れて睨み合う。 外見上は、相変わらず睨み合い、時折攻撃者が鉄筋を撃ち出しては、涼子がそれを叩き落とすという状態。しかし、実は先手の取り合いで、両者の間には仮想段階での攻防がものすごい勢いで繰り広げられている。 正にハルヒが望んだ『超能力』が眼前で展開されている状況。しかし、ハルヒはそれに気が付いていなかった。 彼女は口ではいくら不思議を追い求めることを言っていても、心の中ではそのようなものは存在しないと否定する、自己矛盾の塊。眼前に繰り広げられる、超能力者VS美少女女子高生という奇抜な光景を、どこか遠くの景色を眺めているかのような瞳で見つめていた。 ハルヒには、眼前の光景が酷く現実的でないものに思われた。白昼夢を見ているように感じられた。まるで、あの冬休みの合宿で見た白昼夢のように。 「あんまり激しく動いたら、見えるでー……」 【あんまり激しく動いたら、見えるわよー……】 ぼそりと投げやりに呟くハルヒ。彼女は急速に現実感を喪失していった。希薄になる『成功のイメージ』。 ハルヒの呟きが聞こえたわけではないだろうが、まるでそれを合図にしたかのように、睨み合いを続けていた涼子と攻撃者の均衡が崩れた。 攻撃者は同時に撃ち出される鉄筋の数を急増させた。鉄筋による射撃への対処が遅れ気味になっていく涼子。攻撃者は印を切るように、激しく手らしきものを動かすと、今までより高い位置に、膨大な数の鉄筋が出現した。まさしく雨のように大量の鉄筋が涼子に襲い掛かる。とても迎撃できる数ではない。 「朝倉――――!?」 ハルヒの叫び声は、鉄筋が地面に突き刺さる音にかき消された。 「くっ……! だ、だい、じょう……ぶっ……」 涼子は倒れ込んで巧みに鉄筋の直撃をかわしていた。しかし、地面に突き刺さり折れ曲がった鉄筋に阻まれて、身動きが取れない。このまま追撃されれば、今度は持たないだろう。 「大丈夫って……そんなん、全然大丈夫そうに見えへんわ!!」 【大丈夫って……そんなの、全然大丈夫そうに見えないわよ!!】 ハルヒが叫ぶ。涼子は静かな声で答えた。 「大丈夫。あなたがわたしを信じてくれる限り……わたしは負けへん。」 【大丈夫。あなたがわたしを信じてくれる限り……わたしは負けない。】 「そんな都合の良い精神論をしてる場合違(ちゃ)うやろ――――!?」 【そんな都合の良い精神論をしてる場合じゃないでしょ――――!?】 「信じて!」 朝倉の叫びに、ハルヒはぴたりと止まる。 「前にも言(ゆ)うた通り、わたしは、成功のイメージを信じて行動すれば、上手くいく時があると思うんよ。さっきも成功のイメージができたから、現実に成功したし。『信じる』ことって、やっぱりすごい力なんやで。」 【前にも言った通り、わたしは、成功のイメージを信じて行動すれば、上手くいく時があると思うの。さっきも成功のイメージができたから、現実に成功したし。『信じる』ことって、やっぱりすごい力なのよ。】 涼子は、何とか一つずつ動きを阻む鉄筋を引き抜きながら、続ける。 「せやから、涼宮さんが彼女に会いたいって願えば、きっとすぐに会えるって。もしかしたら、今この場に助けに来てくれるかもしれへんで?」 【だから、涼宮さんが彼女に会いたいって願えば、きっとすぐに会えるって。もしかしたら、今この場に助けに来てくれるかもしれないわよ?】 ――それは涼子の『賭け』だった。 このまま追撃を受ければ、そう長くは持たないかもしれない。しかし、ハルヒを上手く誘導して長門有希を復活させられれば、涼子の任務は達成される。長門有希なら、こんな状況でも上手くやってくれるだろう。『あの』長門有希なのだから。 「有希が……助けに来る……?」 「だって、ヒロインのピンチに颯爽と助けに現れるのは、ヒーローのお約束やろ?」 【だって、ヒロインのピンチに颯爽と助けに現れるのは、ヒーローのお約束でしょ?】 顔を赤らめるハルヒ。 「もうそろそろ、現れてもええん違(ちゃ)う? あなたのヒーローが。」 【もうそろそろ、現れても良いんじゃない? あなたのヒーローが。】 そう言った涼子の声に釣られて、有希の姿を思い描くハルヒ。 攻撃者は、先ほどより更に大量の鉄筋を出現させていた。大量の鉄筋が涼子に襲い掛かったその時。 何か硬いものが破壊される音。涼子達の近くの空間にひびが入る。そこから飛び出す、小柄な人影。無言のショートカットが揺れる。人影が手をかざし、何やら早口で呪文のようなものを唱えると、たちまち鉄筋の雨が爆散した。 ――涼子は、賭けに勝った。 ←Report.14|目次|Report.16→
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#blognavi 大変遅くなりましたが、Report Designerの最新モジュールのダウンロード用サイトを用意させていただきました。 下記サイトより、保守ユーザ様に別途お知らせするダウンロード用ID/パスワードでログイン下さい。 ■ダウンロードサイトのURL http //61.214.131.16/download/ ※ご注意 本サポートサイト(www29.atwiki.jp/reportdesigner)のID/パスワードとは異なりますのでご注意ください。 カテゴリ [お知らせ] - trackback- 2010年08月31日 20 49 31 名前 コメント #blognavi
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2012.04.29 札幌芸術の森 行 参加者 Hiura / Monbetsu / Tabata / Saito 天気 曇り 走行距離 約45km 報告者 Hiura 記念すべき第一回活動は、札幌芸術の森までのライディング。天候に恵まれてとは言い難い曇天の下で、ウォーミングアップ的に走りました。 1時間半ほどで芸術の森に到着。顧問おススメの「ぷくぷく麺」で昼食を取り、何とも言えない創作麺を堪能しました。 Saito君とMonbetsuさんの攻めっぷりが際立つ中、Tabataさんのウォームアップとしても適当だったかと。参加できない人も多い中でしたが、初回としてはまずまずの旅程だったかと思います。
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2012.07.03 物理学科遠足2012 参加者 Hiura / Monbetsu / Seguchi 天気 晴れ 走行距離 約130km 報告者 Hiura 疲れた。アウターで7%の坂を登ってはいけない。おかげで行きの時点で力尽きかけたどこかの男は、帰りもぐったりとしていた。 天候にはある程度恵まれ、行きは曇りがちで走り易かったと言える。帰りはもはや天候どころではない。 最も元気だったのはSeguchi君だった。支笏湖、来年こそ皆で行きましょう。
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Report.10 長門有希の実験 ある実験が行われた。 日常接している人物がある日突然豹変したら、人間はどのような反応をするのか。 日頃との変化が大きい方がより有意な情報が得られるため、わたしが実験台に使用された。これから、わたしの性格が一時的に改変される。 Interface Mode Setup... Download High tension Yukky Database Extract High tension Yukky Database YUKKY.N CREATE TABLE Y.NAGATO AS SELECT * FROM YUKI.N INSERT Y.NAGATO SELECT * FROM YUKKY.N OPTIMIZE TABLE Y.NAGATO SELECT * FROM Y.NAGATO Starting High tension Yukky mode... は~い、ユッキーで~す♪ いやー、いつものわたしと違って、今はと~っても『ユカイ』な気分です。こんな調子でハルにゃんやみくるんに話しかけたらどんな反応をしてくれるのか、めっちゃ楽しみ!! え? キョンくんやいっちゃんの反応はどうでも良いのかって? 実はもう話しかけてみたんですよー。でもでも、あの二人、高校生のくせに、どっちもすっごく落ち着いてるって言うか、 『おやおや、これはまた「ユカイ」な長門さんですな。新境地を開拓でっか?』 【おやおや、これはまた「ユカイ」な長門さんですね。新境地を開拓ですか?】 『……「ユカイ」なお前も結構ええ感じやと思うで、長門。』 【……「ユカイ」なお前も結構良い感じだと思うぞ、長門。】 どんだけ適応力あんねん!! って思わず突っ込んでしまいましたよ。 まあ、いっちゃんは何度も修羅場を掻い潜って来たんだろうし、キョンくんも一般人でありながら身の回りで異常事態が頻発する環境に晒されてるし、不思議なことに慣れっこになってるのかもねー。 鶴屋さんには、 『あっははははは!! 有希っこ、サイッコー!! あっはははははは!!』 爆笑されつつも、すんなりと受け入れられたみたい。この人も包容力あるなー。 キョンくんの妹ちゃんに至っては、 『えへへー、ユカイな有希っこ、楽しー! 一緒にあそぼー!』 この子もハイテンションだからなー。思わず日が暮れるまで一緒に遊んじゃいましたさ。 ちなみに口調だけじゃなくて、声も普段よりかなり高くなってます。結構キャピキャピしてるかな。 さてさて。 そんなわけで、わたしの数少ない交友関係(泣)で、反応を見ていない人は、あと二人。本命ですね。もちろん情報統合思念体的には、本命はハルにゃんだけど、わたし的にはみくるんの反応が一番見てみたいんだよねー。 ハルにゃんとは、まあそのいろいろあって、イロイロエロエロしちゃった関係なんだけど、みくるんとは、まだお近付きになってないんだ。 何か、みくるん、わたしのこと、苦手そうにしてるしね。自分で言うのも何だけど、普段のわたしって、それはもう取っ付き辛いったらないよね。まったく、なんでこんな性格に設定したんだか。責任者出て来ーい! なんてね。 それにハルにゃんの場合、元のあたしでも既に違う一面を見せてるから、もう今回の実験の趣旨は達成されてるとも言えるんだよね。 それはもう、面白かったよー。スプーン取り落としたり、意識がお花畑に飛んでいって三途の川を渡る準備をしたり。 だから、こんなユカイなわたしを見ても、意外と普通な反応されそう。鶴屋さんみたいな感じかな? よし、極(き)めた、じゃなくて決(き)めた! 今回の本命はみくるん! ユカイなハイテンションユッキーで押し切って、一気に仲良くなっちゃおう! ん? 江美里から入電だ。はいはーい! 『わ……情報としては伝わってましたけど、いざ実際に対話すると、すごいですね。普段とのギャップがありすぎて戸惑います。』 ふっふー。萌えるかな? かな? 『さあ、それはわたしには分かりかねるので、コメントは差し控えさせていただきます。それより涼宮さんですが、今日は所用のため、このまま帰るみたいですよ。』 そっかー、帰っちゃうのかー。みくるんは来るのかな? 『朝比奈さんはまだこのことを知らないので、そのまま部室に向かってますね。他の二人は涼宮さんに出会った時に、その場で伝えられたみたいですね。帰ってます。』 じゃ、みくるんにはわたしから伝えてあげないとね。ちょうど良いや。連絡ありがとねー、えみりん。 『えと、えみりんて……と、とにかくそういうことなので。』 えみりんの困惑した様子が目に浮かぶなー。りょーこちゃんだったらどんな反応するんだろうな。 そんな心に移りゆくよしなしごとをそこはかとなくログファイルに書き付けてると、みくるんがやって来ました。 「こんにちは……あれ? 今日は長門さんだけですか?」 「そう。涼宮ハルヒは所用で帰宅した。他の二人にもその旨は伝えられている。」 まずはいつもの調子で。独白も普段ぽくしてみる。 「そうですか……あ、もしかして長門さん、あたしに伝えるためにわざわざ残っててくれたんですか?」 「そう。」 「わ、す、すいません、ありがとうございます!」 今にも回れ右して帰りだしそうな朝比奈みくる。そんなにわたしと二人きりになるのが嫌なのだろうか。少し悲しい。 「よかったら。」 わたしは彼女を呼び止める。 「わたしと一緒に帰ってほしい。」 「ふぇ!?」 「実は、あなたに相談したいことがある。」 「あ、あたしにですかぁ!?」 「だめ?」 「え!? え、えと、その……」 そう言いながら、彼女は耳に手を当ている。未来からの指示を仰いでいるのだろう。そしてわたしは確信している。未来からの指示は、『おまえの思うように行動せよ。』 「未来からの指示?」 「否定も肯定もされませんでした……『お前に任せる』と。」 「そう。では、あなたの気持ち次第。」 「えと、あ、あたしでお役に立てるかどうか分かりませんけど、お話を聞きますね!」 「ありがとう。」 こうしてわたしは、まんまとみくるんを拉致……違う違う。わたしの部屋へ招待した。 「お茶を淹れる。待ってて。」 わたしはお茶を淹れて、こたつに持っていった。こたつに座って対面する二人。さて、話を切り出しますか。 「あなたに来てもらえて、嬉しい。」 「いえいえ、大したことでは。それで、相談というのは?」 「わたしは今、ある事情で、思考がとても『ユカイ』になっている。」 「『ユカイ』……ですか。」 「そう。普段のわたしからは想像もつかないほど。せっかくなので、あなたに披露して、どう思うか聞いてみたい。そして、これを機会に、あなたと仲良くなりたい。」 「えっ!?」 「あなたは、わたしと二人きりになることを極度に嫌っている。」 「あ、あたしはそんなつもりじゃ……!?」 「気にしなくていい。普段のわたしの態度では、仲良くしろと言う方が無理がある。」 そこまで言うと、わたしは、お茶を一口飲んだ。さあ、始めましょうか。 It s a showtime! ハイテンション・ユッキー、いっきまーっす! 「まあ、そう硬くならんとー。りらっくす、りらっくす♪」 【まあ、そう硬くなんないでー。りらっくす、りらっくす♪】 「!?」 おおー、早速目をまん丸にして驚いてる。うんうん、予想通りの反応ありがと、みくるん♪ 「要するにー、今のわたしは普段と違うわたしやから、もっと気楽に喋ってぇやーってこと。」 【要するにー、今のわたしは普段と違うわたしだから、もっと気楽に喋ってよぉーってこと。】 「ふ、ふええ!? な、長門……さん?」 「どうせやから『有希ちゃん』って呼んでぇやぁ、みくるちゃん。それともみくるんって呼んだ方が良い?」 【どうせだから『有希ちゃん』って呼んでよぉ、みくるちゃん。それともみくるんって呼んだ方が良い?】 「みくるんて……」 「ミ・ミ・ミラクル☆ ミクルンルン☆」 「いやぁぁぁぁぁ!! その話はせんとってぇぇぇぇぇ!!」 【いやぁぁぁぁぁ!! その話はしないでぇぇぇぇぇ!!】 おおっと、みくるんの意外な一面が。やっぱりあれ、相当堪えてたんだね。 「まあ、そんなわけで。いつものキャラは置いといて、本音でお話しよ?」 「ううう、何か、見透かされてる気がします……」 「まあまあ、わたしもいつもと違(ちゃ)うんやし。あなたと仲良くしたいっていうんも、ほんまの気持ちなんやで?」 【まあまあ、わたしもいつもと違うんだし。あなたと仲良くしたいっていうのも、ほんとの気持ちなんだよ?】 「なが……有希ちゃん……」 ひゃっほぅ、みくるんが『有希ちゃん』って呼んでくれたよー! なんかすっごくうれし――――!! それからみくるちゃんは、必死でわたしと二人きりになりたがらなかった理由を説明してくれたけど、割愛します。なんていうか、そうした方が良いような気がしたから。大事な友達のことだし、少しは胸の奥にしまっておいた方が良いこともあるよね。 要は、お互いが相手を悪くは思っていないってことが伝われば、それで良いのだ! で、分かったところで、新たな関係を築けば良い。人間の縁って、そんなもんじゃないかな。わたしは人間じゃないけど。 「それで、キョンくん、何て言(ゆ)うたと思う? 『……「ユカイ」なお前も結構ええ感じやと思うで、長門。』それだけ。あんたら、どんだけ適応力あるっちゅうねん!」 【それで、キョンくん、何て言ったと思う? 『……「ユカイ」なお前も結構良い感じだと思うぞ、長門。』それだけ。あんたら、どんだけ適応力あるっていうのよ!】 「あははは、キョンくんらしいー!」 話し始めてしばらくして。最初の緊張もどこへやら、二人はすっかり打ち解けました。みくるちゃんたら、目に涙浮かべて笑ってくれたよ。なんかもう、イジり甲斐あるなー。 「ねえねえ、有希ちゃん。今度一緒に買い物行かへん? あたしの知ってる……」 【ねえねえ、有希ちゃん。今度一緒に買い物行かない? あたしの知ってる……】 みくるちゃんからお誘い。わーい、デートデート、って、違ーう! ハルにゃんじゃないんだから。これは健全な、女の子同士のお買い物のお誘い! ありがたいけど、その頃にはもう、実験は終了して、普段の無口なわたしに戻ってるんだよねえ。……あれ、なんか、そう考えたら急に寂しくなっちゃった。どうしたんだろ。 「!? ゆ、有希ちゃん!?」 「なに~?」 「な、何(なん)で泣いとぉや……?」 【な、何(なん)で泣いてるの……?】 「え? あれ?」 ほんとだ、泣いてる。 「何(なん)でやろ、おかしいな。涙が……止まらへん。次から次へと……」 【何(なん)でだろ、おかしいな。涙が……止まらない。次から次へと……】 わたしの目には涙があふれ、止(とど)まる気配がありません。 「何(なん)で、うっ、何(なん)で涙が、ぐすっ、止まらへんの……ひくっ」 【何(なん)で、うっ、何(なん)で涙が、ぐすっ、止まらないの……ひくっ】 せっかくみくるちゃんと楽しくお話してたのに、これじゃまた嫌われちゃう…… 涙を止めなきゃいけないと思うほど、嫌われるんじゃないかという恐怖が沸き上がって、ますます涙が止まりません。完全に悪循環だ。 するとみくるちゃんが、すっと立ち上がって、わたしのそばにやってきました。そしてわたしの頭を優しく抱き締めたのです。 「ほら、有希ちゃん。泣きたい時は、思いっきり泣いた方がええで。」 【ほら、有希ちゃん。泣きたい時は、思いっきり泣いた方が良いわ。】 みくるちゃんの、おっきい胸。柔らかくてあったかい。なんでも、こないだのハルにゃんとみくるんの大乱闘で、ハルにゃんがこの大きな胸が羨ましいって言ったんだって。たしかに尋常じゃない大きさ。 でも、この胸は単に大きい、見掛け倒しの胸じゃない。底なしの優しさに溢れてる。 「うっ、うっ、うううう……うわああああああああああああああああああああんん!!」 わたしは、彼女の胸の中で泣いた。号泣した。 何が悲しかったのか。何が寂しかったのか。 それは結局、今のこのわたしの思考が、一時的なものでしかないことを知っているから。しばらくすれば、また元の無口なわたしに戻る。また、みくるちゃんが近付きたがらなかった頃のわたしに戻ってしまう。 それが嫌だった。せっかくみくるちゃんと仲良くなれると思ったのに。いや、きっとみくるちゃんは優しいから、元のわたしに戻っても、わたしと仲良くしてくれるだろう。でも、わたしはその思いに態度で応えられない。『そう。』とか『いい。』とか、必要最小限しか言葉を発しない子に戻ってしまう。 それがわたしらしいと言ってくれるかもしれない。でもわたしにだって、他の人並みに喋って、普通の女の子みたいに友達と遊びたいという気持ちはある。元のわたしはどうか知らないけれど、少なくとも今のわたしには、そんな気持ちがある。今のわたしはその気持ちを形にすることができる。でも元のわたしにはそんなことできない。 「戻りたない……」 【戻りたくない……】 「え?」 「戻りたない……元のわたしに戻りたない!!」 【戻りたくない……元のわたしに戻りたくない!!】 わたしは叫んでいた。今のわたしは、あくまで実験のために用意された一時的な人格。元のわたしでさえ、作り物、仮初の命で、今のわたしはその上に宿る、さらに一時的な実験用人格。その存在は極めて脆い。 それなのに、こんなことを願うのは罰当たりなのかな。人間じゃないわたしに罰なんか当たるのか分からないけど。 「元のわたしは、笑えもしない、泣けもしない、ただの観測者……! みんなの気持ちに何一つ応えられない!! わたしは……ただの作り物!! ただの……人間モドキ……! 人形にも人間にもなれない半端者!!」 こんなこと、彼女に言ったところでどうしようもないのに、彼女を困らせるだけなのに、止まらない。わたし、どうしちゃったんだろう。とうとう壊れちゃったのかな……? まったく、困った子だ。やれやれ。 それなのに、彼女は優しくわたしの頭を抱きかかえ、撫でてくれました。 「普段口に出されへん分、相当いろんな思いが溜まってたんやね……ごめんね、気ぃ付いてあげられへんで。」 【普段口に出せない分、相当いろんな思いが溜まってたのね……ごめんね、気付いてあげられなくて。】 何でみくるちゃんが謝るの? 謝るのはわたしの方なのに。 「ううん、そんなことない。あたし達、結局いつも有希ちゃん……『長門さん』に頼ってばっかりやもんね。」 【ううん、そんなことない。あたし達、結局いつも有希ちゃん……『長門さん』に頼ってばっかりだもんね。】 彼女は、小さな子供に言い聞かせるような、優しい声で言いました。 「あたしは、いつも無口で頼れる『長門さん』も、とっても可愛い『有希ちゃん』も、どっちも好き。」 そして彼女はわたしの頭を胸から離すと、自分の顔の前に持って行きました。 「せやから、約束して? もう二度と、人形やとか何とか、そんな悲しいこと言わへんって。あたしも、みんなも……『長門有希』さんを大好きなんやから。」 【だから、約束して? もう二度と、人形だとか何とか、そんな悲しいこと言わないって。あたしも、みんなも……『長門有希』さんを大好きなんだから。】 彼女の優しく真っ直ぐな瞳が、わたしの瞳を見つめます。 「……はい。」 今のわたしの顔はきっと、涙と鼻水でぐちゃぐちゃ。そんな顔を間近でじっと見つめられてます。ちょっと恥ずかしいな。 「……よくできました。」 彼女は飛びっきりの優しい笑顔で言いました。本当に綺麗な、天使のような笑顔でした。 「ほら、もう泣かない。笑って笑って! 有希ちゃんの笑顔はめっちゃ可愛いんやから!」 【ほら、もう泣かない。笑って笑って! 有希ちゃんの笑顔はすっごく可愛いんだから!】 可愛い……か。なんか、嬉しいな。 「えへへ……」 自然と、笑いがこぼれました。ちょっと照れた笑い。 「きゃー、可愛い――――!!」 彼女はまたわたしの頭を抱き締めました。おっきなおっぱいに埋もれて、ちょっと幸せ。ハルにゃんが揉みまくってた理由の一端が分かったかも。ずっとこうしていたいな。 ああ、それなのにだんだん意識が遠くなってきました。もう実験終了なの? せめて一秒でも長く、この暖かさ、柔らかさ、優しさを感じていたい…… Interface Mode Setup... COPY NAGATO_YUKI.log + YUKKY.log NAGATO_YUKI.log DEL YUKKY.log DROP TABLE Y.NAGATO, YUKKY.N SELECT * FROM YUKI.N Starting NAGATO Yuki original mode... わたしは、朝比奈みくるの胸の中で目を覚ました。二人とも眠っていた模様。早速先ほどまでの行動のログを確認する。 「…………」 わたしは彼女の胸で泣いていたらしい。 『人形にも人間にもなれない半端者』 これほど今のわたしの状態を的確に表現した言葉もないかもしれない。 『わたしにだって、他の人並みに喋って、普通の女の子みたいに友達と遊びたいという気持ちはある。今のわたしはその気持ちを形にすることができる。でも元のわたしにはそんなことできない。』 そういうことか。 これは、実験用人格に用意された感情による言葉ではない。なぜなら、実験用人格が削除された今のわたし……『元のわたし』でも、彼女――朝比奈みくる――のことを考えると、胸が熱くなるから。 これは『わたし』という個体が持つ、固有の『感情』。人間で言うところの……『本音』。 また感情が暴走してしまった。彼女には迷惑を掛けてしまった。 でも、そんなわたしを、彼女は優しく抱き締め、慰め、諭してくれた。涼宮ハルヒを支えたいと願ったわたしだが、朝比奈みくるに支えられた。 ――人間は決して一人では生きていけない。皆支えあって生きている。 何かの本で読んだ言葉。今ならその意味が少しは実感できるかもしれない。 静かに眠る、わたしを支えてくれた人の顔を見る。優しい、安らかな寝顔。 「……ありがとう。」 そう言うとわたしは、朝比奈みくるの額……ではなく、やはり唇に口付けをした。どうやら、あなたのことも好きになってしまったようだ。 『二股』……か。やれやれ。 結局、彼女の強さと、自分の弱さを見せつけられる結果となった。『彼』と言い彼女と言い、どうして涼宮ハルヒの周りには、こんなに優しい人達が集まっているのだろう。 彼女の買い物のお誘いの日を思い出しながら、せめてその日くらいは、少しは口数を増やせないだろうかと考えながら、わたしも彼女と一緒に眠ることにした。 彼女を抱き締めると、彼女も抱き締めてくれた。暖かい。そして強く優しい。 わたしは、涼宮ハルヒとはまた違った安らぎを感じながら眠りに落ちた。 後で聞いた話になる。 実験終了後、わたしの反応が途絶えたため、現場を確認するために喜緑江美里が遣わされた。違う派閥なのに、ご苦労なこと。 「わたしは、あなたの監査役でもあるんですからね。」 現場に踏み込んだ江美里。そこで彼女が見たものは、抱き合って眠るわたしと朝比奈みくる。 「すごい光景でしたよ。人間の言葉で言うところの『感動もの』でした。」 生命活動その他に異状がないことを確認すると、彼女はそのままその光景を眺めていたという。 「正確に言うと、『見とれていた』のかもしれませんね。インターフェイスに過ぎない私にも分かるくらい、そう、『神々しい』光景でした。記念に一枚撮っときましたよ。」 そう言って彼女は、一枚の紙を取り出した。 写真。光を受けて分子構造が変化する素材を利用した、画像の記録手段。 情報統合思念体のような情報生命体からすれば、極めて原始的な情報処理方式だが、『形あるもの』によって情報を取り扱う有機生命体にとっては、適した手段といえる。最近江美里は、この『写真を撮る』という行為がお気に入りなのだという。 差し出された紙片に映し出された、その時の光景の記録を見る。 「…………」 「例えて言うなら、『天使と天女が仲良く眠る図』ですね。」 そこには、安らかで穏やかな顔で抱き合って眠る、二人の少女が写っていた。そこに写っている二人のうち、片方がわたしであることに、すぐには気が付かなかった。それくらい、普段のわたしとは印象がまるで違っていた。 「長門さんの寝顔に涼宮さんが参っちゃうのも、仕方ないのかもしれませんね。」 江美里は、楽しそうに言った。 「それにしても二股とは、あなたも恋多きヒトですねー。この写真を涼宮さんが見たら、どうなるのかなー?」 「……パーソナルネームえみりんを敵性と判定。当該対象の有機情報連結解除を申請する。」 「あーれー、お止めになってぇ~。」 それにしてもこのインターフェイス、ノリノリである。もしかして、彼女はハイテンション・エミリーでも実行しているのだろうか。 「……後でこの光景の詳しいデータも欲しい。」 「あー、何だかお腹が空いたなー。」 「……今日は肉じゃが。カレーと具が共通。」 今晩も、いつもより『美味しい』食事になるようだ。 「……やれやれ。」 【参考:Extra.4 喜緑江美里の報告|Extra.5 涼宮ハルヒの戦後】 ←Report.09|目次|Report.11→
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/1248.html
Report.12 長門有希の憂鬱 その1 ~長門有希の消失~ 「うりゃあぁぁぁ! 今日もみくるちゃんは可愛いなっ! 胸もまたおっきくなったん違(ちゃ)う!?」 【うりゃあぁぁぁ! 今日もみくるちゃんは可愛いなっ! 胸もまたおっきくなったんじゃない!?】 「わひいぃぃ!?」 涼宮ハルヒが朝比奈みくるの胸を揉む。みくるはいつもなら嫌がるが、今日は余り嫌がっていない。 「はふぅ……涼宮さん、ほんまに胸揉むん好きですね……しかも妙に上手いし……」 【はふぅ……涼宮さん、ほんとに胸揉むの好きですね……しかも妙に上手いし……】 頬を上気させて、荒い息をしながらみくるは言った。 「いや~、みくるちゃんの胸はほんまに揉み応えがあって癖になるわ。」 【いや~、みくるちゃんの胸はほんとに揉み応えがあって癖になるわ。】 ようやくみくるを解放したハルヒは、一仕事終えたかのような表情で言った。 「うふ。じゃあ、こういうのはどうですか?」 そう言うとみくるは、ハルヒの頭を抱きかかえた。 「むー、むー……この程よい窒息感、イイ……」 ややくぐもった声で、ハルヒが答える。 「更にはこんなこととか。」 みくるはハルヒの後ろに回ると、彼女の頭に胸を乗せた。 「おおお、この重量感! 信じられへん……」 【おおお、この重量感! 信じられない……】 「ふふふ。涼宮さんて、ほんま胸好きですね。大きければ何でも良いんですか?」 【ふふふ。涼宮さんて、ほんと胸好きですね。大きければ何でも良いんですか?】 「いやいやいや、決してそういうわけ違(ちゃ)うんよ。大事なのは形と実用性! そして何より……『その人の胸』ってのが重要やねん!」 【いやいやいや、決してそういうわけじゃないのよ。大事なのは形と実用性! そして何より……『その人の胸』ってのが重要なの!】 「ふぁ……それって、『あたし』の胸やから、ってことですか!?」 【ふぁ……それって、『あたし』の胸だから、ってことですか!?】 ハルヒはみくるに向き直って言った。 「ファイナルアンサー?」 「ふぇ!? フ、ファイナルアンサー……」 ハルヒは眉をしかめながら、長い溜めに入った。 「……正解!」 ハルヒはみくるの胸を、前からパン生地をこねるように弄んだ。 「それじゃご褒美! うりゃうりゃうりゃうりゃ……」 「あっ、あっ、あっ、あっ……」 「……けだもの。」 その時、平坦で冷静な声が二人に浴びせ掛けられる。わたしはとっくに部室に入っていた。いちゃついていた二人の動きが止まる。顔が引き攣っている。わたしはそれ以上何も言わず、いつもの席に着くと、本を読み始めた。今日は『新明解国語辞典』。この辞書は、解説がユニーク。 『…………』 三人分の三点リーダが部室を支配する。 「こほん!」 ハルヒはぎこちなくみくるの胸から手を離すと、わざとらしく咳払いを一つした。 「あー、みくるちゃん! お茶お替りお願いっ!」 「は、はい!? ただいま!」 みくるは、服の乱れを直すのもそこそこに、慌ててお茶の用意をする。 「は、はい涼宮さん!」 「あ、ありがと!」 お茶を机に置くみくる。ハルヒの声は微妙に、みくるの声は明らかに、上ずっている。 「は、はい長門さん!」 わたしのそばにお茶が用意される。普段ならわたしは、少しだけ視線を上げて謝意を表明するが、この時は何もしなかった。したくなかったから。 先ほど、わたしは思わず声を掛けた。普段なら、何も言わず観測に徹していたはずなのに。なぜか、声を掛けずにはいられなかった。 人間の感情に例えると、それは『面白くない』というものだった。 わたしの好きな人同士が、乳繰り合っている光景。それが面白くなかった。なぜ? 答えは簡単に出た。理由は一つ。そこにわたしがいないから。わたしは『嫉妬』していた。 やがて『彼』と古泉一樹が部室に姿を現し、いつものように活動が始まった。しかし、完全に普段通りとはいかなかった。 ハルヒとみくるは、しきりに視線を交わしては、慌てて視線をそらしている。その度にわたしからは、『彼』の表現を借りれば『透明オーラ』が立ち上るような気がした。微妙に張り詰めた空気を察知して、男子二人も気が気ではない様子だった。 何となく気まずい空気に包まれながらの活動も終了し、皆は帰途につく。 わたしは、部室の整理をすると言って部室に残っていた。確かめたいことがあったから。 『団長』と書かれた三角錐が置かれた、ハルヒの席。そのそばに、丸めた紙くずが落ちていた。わたしは活動中から何となく気になっていたその紙くずを開いてみる。そしてわたしは硬直した。 『キョン……あたしの有希を取らないでよ!!』 人間に例えると、『頭が真っ白になった』という状態。わたしの情報処理機能が停止していた。 「有希……?」 その時ハルヒが入ってきた。声を掛けてくるまで気付かなかったとは。以前のわたしなら考えられない出来事。 「何見てんの……!? そ、それは!?」 わたしは未だに動けないでいる。 「な、何を……何を見てんの!!」 叫んで猛然とわたしに向かってくる彼女。ものすごい勢いでわたしから紙を奪い取る。 「何よ何よ何よ何よ!! 何(なん)で見てんの!!」 「あ……」 わたしは声すらもまともに出せない。 「わ、わたしは……不要なら捨てようと思って……大事なものでないか確認しようと……」 「うるさいっ!!」 彼女に突き飛ばされる。わたしはまともに本棚に叩き付けられた。何冊か本が落ちてくる。 「何(なん)で人の、プライバシーを覗いとぉ!」 【何(なん)で人の、プライバシーを覗いてんのよ!】 「違う……わたしはただ……」 その時、額に何か液体が垂れてきた。血。見る見る青ざめていく彼女の顔。『やってしまった』という表情。 「……信じて。」 「あ、あたしは悪くないんやからね! 有希が人の書いたものを勝手に見てたのが悪いんやから!!」 【あ、あたしは悪くないんだからね! 有希が人の書いたものを勝手に見てたのが悪いんだから!!】 彼女はそっぽを向いて……わたしが血を流している姿を見ないようにしながら言った。 「き、気分が悪いから帰る! ……あ、あんたも、保健室行っときや!」 【き、気分が悪いから帰る! ……あ、あんたも、保健室行っときなさいよ!】 そう言い捨てると彼女は、バツが悪そうに足早に立ち去った。彼女を怒らせてしまった。不手際。だが……なぜあの時わたしは、まともに行動できなかったのだろう。 彼女があれほど激昂したのは、この紙片が原因であることは間違いない。彼女が立ち去ってから、改めてその紙片を観察する。 そして、その紙片が落ちていた辺りに、他にも幾つか同じように丸めて捨ててある紙片を見付けた。今度は彼女がこの部室に近付いていないことを確認してから、他の紙片も確認する。 それには、『キョン』――『彼』や、わたし、みくる、一樹への、屈折した思いの丈が書き殴られていた。 思い当たることがある。 最近彼女は、Webサイトを閲覧しながら、時々紙に何かを書き付けていた。最初は、何か気に入った情報をメモしているように思われたが、それにしては様子がおかしかった。それを書いているときの彼女は、非常に不機嫌だった。その時に書いていたのが、これらの紙片だろう。こうすることで、彼女は自分のイライラを静めていたということか。 人間には、心の中に、他人には知られたくない、『触れられたくない』と考える情報が存在する。他人へ寄せる好意、悪意等も、そのような情報である場合が多い。ハルヒもそうなのだろう。そんな彼女の……最も他人に触れられたくない領域を、わたしは侵してしまったことになる。 「……うかつ。」 この不手際、どう埋め合わせをするか。重大な懸案事項を抱えてしまった。しかし、事はこれだけでは済まなかった。もっと重大な事態が発生したから。 その夜、小規模ながら、情報フレアが観測された。発生源は涼宮ハルヒ。今回は以前と違って、ごく限定的な範囲に圧縮した情報の奔流が見られた。以前は、ほぼ無秩序に世界を書き換えてしまう形での、文字通り『爆発』であった。 しかし今回は違う。限定的・選択的に情報を書き換えるという、高度に制御された情報操作。力の主は、力の使い方を無意識的にでも、『肌で感じている』のかもしれない。 わたしが部屋で一人、夜を過ごしている時のことだった。わたしは、彼女を怒らせてしまった不手際をどう埋め合わせするか検討していた。 そんな時、突如、わたしの肉体、ヒューマノイド・インターフェイスとしての有機情報連結体が、その形状を保てなくなった。瞬く間に、煌めく砂のような粒子になって崩れていくわたしの身体。それはいつかの、朝倉涼子の姿と同じだった。 わたしは、為す術もなく、空気に溶けていくわたしの身体を見ているしかなかった。……朝倉涼子は、どんな気持ちで、この光景を、自分の身体が崩れていく様子を見ていたのだろうか。 今回引き起こされた現象は、わたし――『長門有希』の消失。 『長門有希』は、消失した。個体としての特異性を失い、無個性な情報生命体として、涼宮ハルヒとその周辺に『漂って』いた。彼女達に働きかける手段を持たない、ただ観測するだけの存在。 情報統合思念体は、個体・長門有希の復元を試みたが、それは徒労に終わった。大きな力――涼宮ハルヒの意思が介在した。 『有希に会いたくない。』 その思いが、長門有希の再生を許可しなかった。 情報統合思念体は、長門有希が消失した現状を維持しながら、観測を継続することにした。長門有希の不在については、人間の意識に無理なく理解される形に情報が操作された。観測そのものは、他の端末や肉体を失った長門有希を通してでも可能。 しかし、涼宮ハルヒの中で、長門有希という個体に関する情報は、既に大きな領域を占有していた。よって、このまま長門有希を廃棄する事はできない。どのような影響があるか予測不可能。したがって、代替インターフェイスを配置する必要があると認められた。 この時点で、涼宮ハルヒはある人物を思い出していた。それは、『朝倉涼子』。 朝倉涼子は、元々は長門有希のバックアップとして、涼宮ハルヒと同じクラスに配置されたインターフェイス。しかし、異常動作による独断専行により、重要観測対象である通称『キョン』を殺害しようとした。そしてそれを阻むために行動した長門有希により、有機情報連結を解除されていた。 朝倉涼子の、インターフェイスとしての性能は、長門有希と遜色ない。そして、涼宮ハルヒの近くに配置しても問題が少ないという、数少ないインターフェイスでもある。 長門有希の再構成は未だ不可能。情報統合思念体は決定した。 長門有希の『バックアップ』、朝倉涼子を再構成し、長門有希の任務を代行させる。つまり、『バックアップ』としての役割を果たさせる。 ――再構成、パーソナルネーム朝倉涼子 ――辞令、長門有希任務代行 朝倉涼子 朝倉涼子が帰ってきた。涼宮ハルヒを観測する任務を帯びて。 「謹慎がようやく解けたと思ったら、ただの仮出所か……」 朝倉涼子の任務は、あくまで『長門有希任務代行』。長門有希が元に戻れば、涼子の任務は終了する。 「所詮わたしはバックアップかあ。長門さんが元に戻ったら、すぐにわたしは消えてしまうのよね。」 涼子は、情報統合思念体の自分に対する扱いに、やや不満を抱いていた。 「そういえば、前も再構成されて、結局同じことをして、また消されたっけ……扱い悪いなあ。」 復元された場所は、今はもぬけの殻となった、708号室。長門有希の部屋の中。 涼子は鏡を見る。自分が明らかに不満そうな表情を浮かべていることを視認する。彼女は両頬を軽く手で叩いた。 「ま、一端末があれこれ言っても仕方ないか。仕事仕事!」 すぐに表情を笑顔にする。彼女は優秀だった。 「涼宮さんに、長門さんにまた会いたいって思わせる必要があるわ。やっぱり、学校行くのが一番有効かな。」 久しぶりに元・1年5組の人たちにも会いたいしね、と涼子は準備に取り掛かる。情報操作。 「時間の流れを無視した記憶改変は危険、というのが、長門さんの暴走で得られた教訓。」 操作の範囲が広がる分、記憶の整合性に注意しつつ十分な時間範囲に改変を行うことは、極めて煩雑。しかも、そこまで行っても、涼宮ハルヒと彼女に近い人間には、違和感に気付かれる恐れがある。 涼子は最小限の改変で済むよう、注意深く改変箇所を選定した。 「……操作完了。やっぱりこうするのが一番合理的かな。……キョンくんは、わたしのことは信用してくれないだろうけど……」 『自業自得』と呼ぶには、彼女にも酌むべきところはある。彼女は任務に忠実だった。しかし事情は、殺害されかけたキョンにとっても同じであることを、彼女は理解していた。それはこれまでの観測による、人間心理の考察によるところも大きい。 彼女は優秀だった。 朝倉涼子は私服で北高に登校した。彼女は、転校先のカナダから一時帰国したことになっている。既に北高に籍はないので、授業には参加しない。本来なら校内への立ち入りも難しい。しかし、元・北高生で、急な転校であったこともあって、特例として校内への立ち入りと、一部授業の見学を許可された。 彼女は涼宮ハルヒとキョンがいるクラスの授業を中心に見学した。そのクラスは、元・1年5組の生徒が多かったこともあって、朝のHRから登場し、挨拶を行った。 「えー、今日はみんなに紹介する人がおる。このクラスは元・1年5組の者が多いから、覚えてる人もおるかもしれん。」 【えー、今日はみんなに紹介する人がいる。このクラスは元・1年5組の者が多いから、覚えてる人もいるかもしれん。】 そう言うと担任の岡部教諭は、廊下にいる人物に、教室への入室を促した。教室に彼女が入ってくる。 「おはようございます。初めての人は、はじめまして。覚えている人は、お久しぶり。去年、1年5組にいた、朝倉涼子です。父の仕事の都合で、カナダに転校しました。親族での用事なんかがあって、今は日本に一時帰国してます。それで、せっかくなので、北高に来させてもらいました。短い間ですが、よろしくお願いします。」 教室にどよめきが起こった。ハルヒは目を輝かせ、対照的にキョンは真っ青な顔をした。涼子は、彼らへの対応を最優先させる必要があった。 なお余談であるが、『見学』ではあるものの、設定上『英語』という言語を使用するカナダという国へ転校したことになっているので、英語の授業では、例文の朗読係として重宝された。 「うん、さすがは生の英語に触れてる人間の発音やな。完璧や。というか、正直、教師を超えてるな……」 【うん、さすがは生の英語に触れてる人間の発音だな。完璧だ。というか、正直、教師を超えてるな……】 「いえいえ、まだ一年ほどですから、そんなには……」 挨拶を行ったHR後、早速元・1年5組の女子に囲まれ、質問攻めに遭う涼子。その輪の中にいながら、彼女の接近を認めると、涼子は視線を彼女に向ける。 「久しぶりやね、朝倉。」 【久しぶりね、朝倉。】 「お久しぶり、涼宮さん。」 周りを囲んでいた女子達も、彼女達の会話に注目している。 「急に転校して、あの時はびっくりしたで。あの日すぐにあんたのマンション行ってみたんやけど、もう荷物とか何もなかったわ。えらい引っ越しの手際がええなー思(おも)てた。」 【急に転校して、あの時はびっくりしたわ。あの日すぐにあんたのマンションに行ってみたんだけど、もう荷物とか何もなかったわ。やけに引っ越しの手際が良いなーって思ってた。】 涼子は答える。 「詳しいことはよぉ知らへんけど、会社の方で何もかも手配済みやったらしくて、わたしが学校行ってる間に、片付けは終わってたみたい。わたしもびっくりやったわ。おかげでろくに挨拶もできひんで。みんなごめんな?」 【詳しいことはよく知らないけど、会社の方で何もかも手配済みだったらしくて、わたしが学校行ってる間に、片付けは終わってたみたい。わたしもびっくりだったわ。おかげでろくに挨拶もできなくて。みんなごめんね?】 涼子は周囲の女子達を見回しながら謝罪する。予鈴が鳴ると、涼子は職員室へ向かった。 校長室で校長への挨拶等をしたり、職員室の応接室で教師達と談笑したりするうちに、昼休みとなる。そろそろ昼食を、と思うと同時に、応接室の扉が勢い良く開いた。 「朝倉ー! 一緒にごはん食べよー!!」 涼宮ハルヒはやっぱり涼宮ハルヒだった。後ろには、ネクタイを掴まれて引きずり回されたであろうキョンの姿もあった。 彼女達は外のベンチに陣取った。キョンは弁当、ハルヒと涼子は学食から持ち出してきた。 「ここの学食の料理を食べるのも久しぶりやわあ。」 【ここの学食の料理を食べるのも久しぶりだわ。】 涼子はしみじみと感想を述べる。ハルヒが答えた。 「残念ながら、全然味は美味しくなってへんけどね。」 【残念ながら、全然味は美味しくなってないけどね。】 涼子は、にこにこしながら言った。 「それにしても、涼宮さん。しばらく見いひん間に、結構変わったね。」 【それにしても、涼宮さん。しばらく見ない間に、結構変わったわね。】 「何が?」 きょとんとした顔で、ハルヒは答える。 「クラスの人とも打ち解けてるみたいやし、何より、表情が変わったわ。」 【クラスの人とも打ち解けてるみたいだし、何より、表情が変わったわ。】 「そうかな? よぉ分からへんけど。」 【そうかな? よく分かんないけど。】 「変わった変わった。前はすごかったんやで? まるで『寄らば斬る』っていう雰囲気やってんから。『SOS団』、やったかな? 涼宮さんが作った部活。その活動が楽しいんかな?」 【変わった変わった。前はすごかったのよ? まるで『寄らば斬る』っていう雰囲気だったんだから。『SOS団』、だったかな? 涼宮さんが作った部活。その活動が楽しいのかな?】 「まあ、楽しくない言(ゆ)うたら嘘になるかな。」 【まあ、楽しくないって言ったら嘘になるかな。】 ハルヒは、学食から運んできた日替わり定食の唐揚げを食べながら答えた。 「ところで、キョンの様子が朝からずーっとおかしいねん。あんたの顔を見てから、急に顔色が真っ青になって、何聞いても上の空で。」 【ところで、キョンの様子が朝からずーっとおかしいのよ。あんたの顔を見てから、急に顔色が真っ青になって、何聞いても上の空で。】 それは間違いなく、涼子が原因。過去二回も、『彼』は涼子に殺害されかけている。そんな相手が目の前に現れたら、平静ではいられないだろう。 「何(なん)か心当たりある?」 「うーん、しばらくぶりに帰国した早々言われても……」 涼子は、困った顔をして答えた。もちろん理由については大いに心当たりがあるが、それを口にするわけにはいかない。 「あんたが転校する前に、キョンと何かあったとか?」 「えー、それはないと思うな。」 涼子はそう答えながらも、複雑な表情をしていることに、ハルヒは気付いていた。だが、その理由をこの場で問いただすことは何となく憚られたので、その点については触れないでおいた。 キョンは終始、憔悴しきった顔で無言を貫いていた。『彼』にはきちんと説明しなければならない。涼子はそう痛感した。『彼』の協力を得られなければ、任務は達成できない。 だが彼女が単独で、『彼』に接触して冷静に話を聞いてもらうことは、不可能に近い。『彼』にとって『朝倉涼子』は、完全に精神的外傷となっていた。 それに、ハルヒの周辺にいるのは、『彼』だけではない。朝比奈みくる、古泉一樹。未来人と超能力者の勢力からそれぞれ派遣された人員。彼らにも協力を要請する必要がある。 そのためには、まず派閥が違うとは言え、同類である宇宙人の勢力で話をつけておく必要がある。涼子は、別の派閥に属する対有機生命体コンタクト用ヒューマノイド・インターフェイスに通信を試みる。 『派閥が違うのは重々承知の上で、お願いするわ。喜緑江美里。協力を要請します。』 『このままでは、うちの派閥にとっても、ひいては情報統合思念体にとってもまずいことになりそうなので、わたしもできる限り協力しますよ。』 『感謝します。』 宇宙人勢力の協力は取り付けた。次は人間勢の協力が必要。 だが、三人同時にハルヒから離すことは危険。ただでさえ彼女は今、『朝倉涼子』の登場で興奮状態にある。そして『長門有希』は今、そばにはいない。どんな反応をするか、正確に特定できない。 (これまでの観測データによると……古泉くんの協力が得られれば、根回しが自然にできる……ふむ。) まずは古泉一樹と朝比奈みくる。二大勢力の協力を取り付けよう。そう考えながら涼子は、素うどんを食べ終えた。午後は忙しくなる。適当に授業の見学名目でハルヒを観測しつつ、江美里と打ち合わせを行わなければならない。 ←Report.11|目次|Report.13→
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Report.15 長門有希の憂鬱 その4 ~過激派端末の強襲~ 部室での会話の後、なし崩しに涼宮ハルヒと朝倉涼子は、一緒に帰ることになった。 「何であんたと一緒に帰らなあかんのよ……」 【何であんたと一緒に帰らなきゃならないのよ……】 「まあまあ。たまにはええやん。」 【まあまあ。たまには良いじゃない。】 ふてくされたようなハルヒと対照的に、涼子は上機嫌に見えた。 涼子は、見かけ上、喜怒哀楽がはっきり現れるように設定されている。その点では長門有希と対照的。しかしその内実は、あくまで基礎的な人間の観測データに基づき計算された、『恐らくこのようなものだろう』というモデルを基に構築されたものに過ぎなかった。過ぎなかったが。 二度の『死亡』と『復活』を経て、今や涼子は人間に存在する『感情』に限りなく近いものを獲得した。その『感情』が、涼子を上機嫌な表情にさせていた。涼子の誘導は成功した。ハルヒは、有希に会いたいと思っている。今や、有希に対する負の感情は、わずかばかりの気まずさと罪悪感を残すばかりとなっていた。 ハルヒと涼子二人の帰り道。二人は他愛のない話に裏話を追加した、意外とためになる話をしていた。 どこか寄り道でもしようか、と話していた時、急に空の色が変わった。そして同時に、涼子にある異変が起こった。情報統合思念体に接続できない。そして襲い掛かる高負荷。 (っ……!? 何、これ!?) 彼女の五感が、次々に感度を落としていく。そして緩やかに拘束される身体能力。 (普通の人間と同じくらいしか能力が無くなってる……っ!) ハルヒも異変に気付いた。 「ちょ……! 何、これ……!? 急に空が変な色に……それに、物音もせえへんようになって……」 【ちょ……! 何、これ……!? 急に空が変な色に……それに、物音もしなくなって……】 灰色に塗り潰されたような世界。まるでハルヒが生み出す閉鎖空間のよう。生命の気配が感じられないことも同じ。しかし、決定的に違っていることがあった。そこに『神人』の気配はない。この空間の発生は、ハルヒの能力によるものではない。 (これは……空間封鎖!?) 空間封鎖は、涼子達、情報統合思念体の勢力が得意とする手段。広く言えば、情報統合思念体と起源を異にする広域帯宇宙存在も空間封鎖を行うが、彼らの手法は術式が違う。 今のこの空間封鎖は、光学的には偽装しているが、紛れもなく涼子が良く知る勢力の手法だった。 (そんな……情報統合思念体の一派の行動だったら、わたしが感知できないはずないのに……!) 今の空間封鎖は、全くの不意打ちだった。焦る涼子。涼子はハルヒの手を取った。 「ちょっと!? 何すん……」 言いかけたハルヒの言葉が止まる。ハルヒの手を取った涼子の顔には、焦燥の表情が浮かんでいた。そして、冷や汗で、顔も手のひらも、じっとりと濡れていた。 「……涼宮さん。わたし、今の状況は、わたし達がはぐれたらあかんような気がすんの。」 【……涼宮さん。わたし、今の状況は、わたし達がはぐれちゃいけないような気がするの。】 「……分かった。」 涼子のただならぬ気配に、ハルヒもおとなしく涼子の手を握り返す。命の気配が感じられないこの空間で、握り締めた掌だけが、命の存在を伝えている。 『江美里! 江美里っ! 応答して!!』 涼子は協力者である別のインターフェイスに交信を試みるが、応答はない。 (まずい……完全に孤立した……) しかも現状は、涼子は宇宙的な力をほとんど使用できない。身体能力は、辛うじてハルヒの能力に勝っている程度。人間の枠を超えた能力は使えない。例えば、もし肉体を損傷しても、即座に修復することはできない。 「誰かに連絡を……」 「あかん! 携帯は圏外やわ!!」 【だめ! 携帯は圏外だわ!!】 ハルヒは、携帯電話の画面を睨み付けながら答えた。 (この状況は……わたしを無力化させるため……? だとしたら、相手の目的は……) 涼子は、たとえ情報統合思念体と接続していなくても、通常の人間以上には高度な思考力を持つように設計されている。ただし、この設計は、あくまで不測の事態に対処するために設けられた『セイフティネット』。この設計が役に立つような事態は、本来あってはならない非常事態。早急な事態への対応が求められる。 そして涼子は思い当たった。 涼子を無力化することを、実行し得るのは誰なのか。 涼子を無力化することで、得をするのは誰なのか。 ……すなわち、この事件の首謀者は誰なのか。 (これは……過激派……! まずい! あいつらの目的は……っ!) その時涼子は何かに気付いた。そして迷わずハルヒの腰にタックルした。 「おわ……っ!」 不意にタックルを喰らい、盛大に地面に叩き付けられるハルヒ。 「痛いなー、もう! いきなり何すん……」 怒鳴りかけたハルヒの声が止まる。ハルヒの腰にしがみつく涼子は、衣服の肩の辺りを赤く染めていた。 「ちょっ、どないしたん!?」 【ちょっ、どうしたの!?】 「涼宮さんの死角から、何かが飛んできて……」 起き上がりながら答える涼子。ハルヒを助け起こすと、何かが飛んできた辺りを睨み付ける。そこには何の痕跡も見付ける事はできなかった。あるのはただ、誰もいない、何もない空間。 しかし、涼子は気付いていた。 飛翔体の軌道。出現時間。出現場所。飛行速度。 これらはすべて、涼子がその存在に気付き、取るべき行動を判断し、実行した時に、ちょうど涼子の肩を掠めるように設定されていた。 (これは……涼宮さんじゃない、わたしを狙った攻撃!?) 『涼宮ハルヒの観測と保全』が任務である今の涼子は、もしハルヒに危害が加えられるような事態になれば、最優先でハルヒを守る行動を取るであろうことは、容易に推測できる。だから、その危機がより切迫しているほど、涼子は確実に、ハルヒを守る行動を取る。場合によっては、身代わりに攻撃を受けることもあるだろう。 それが『奴ら』の狙い。 通常の涼子なら、そのような切迫した状況でも、難なくハルヒも自分も守れる。 では、情報統合思念体のサポートなしでは? 端末単体の能力で対処せざるを得ない状況では? 涼子が危機を『回避』する可能性を奪うことができる。確実に攻撃できる。 そしてまた、これはハルヒにとって強力な精神攻撃ともなる。 涼子は、ハルヒを庇って負傷する。そうして損傷を蓄積したところで、止めを刺す。 ハルヒから見れば、ハルヒを庇ったせいで涼子は怪我をし、そして殺害されることになる。 『自分のせいで人が苦しみ、死んでしまう』 これはハルヒに、己の無力さと自己の存在意義を強く意識させる事象となる。自らに『力』と『存在意義』が欲しいと強く願ったハルヒからは、間違いなく、巨大な情報爆発が観測できる。 これが『奴ら』のシナリオ。合理的で、的確な洞察。 また飛翔体。今度はハルヒの正面から。 涼子は飛翔体の射線上に躍り出ると、手ではたいて飛翔体の軌道を変えた。涼子達の背後にあった庭木の天辺が切り落とされた。 (随分と舐められたものね……さっきは不覚を取ったけど、いくら情報統合思念体との接続が切れてるからって、そう簡単にやられてたまるもんですか! これでもわたしは、『あの』長門有希の代理者なんだから!) 『奴ら』の思い通りにはさせない。たとえこの身が果てようとも、ただではやられない。少なくともハルヒだけは逃がしてみせる。それが朝倉涼子の意思。そして長門有希の意思。涼子は覚悟を完了した。 「涼宮さん、わたしのそばから離れんとってよ。」 【涼宮さん、わたしのそばから離れないでよ。】 涼子は、ハルヒを背に庇う位置に立ちながら言った。 「朝倉、あんた……今さっきの、アレ、どうやってやったん……!?」 【朝倉、あんた……今さっきの、アレ、どうやってやったの……!?】 ハルヒは、恐怖と好奇心が7:3の割合で混合された瞳で、涼子に尋ねた。 「それは……ふっ!」 答えの途中で涼子は両手を身体の前で素早く広げた。後方にあるブロック塀に、貫通痕が二つできる。 「実は少々、武術の心得があって……はっ!」 右足でアウトサイドキック。後方の電柱がえぐられる。 「少々ってレベル違(ちゃ)うやろ、コレは!?」 【少々ってレベルじゃないでしょ、コレは!?】 ハルヒのツッコミ。涼子は、前方から視線を外さず答える。 「……カナダに行ってる間に、マーシャルアーツの先生の下で武者修行を……やぁっ!」 左手で飛翔体を掴もうとするが、失敗。後方で植木鉢が弾け飛び、窓ガラスが割れた。 (だめだ……全然見えない。せめて何が飛んで来てるのか分からないことには……) それに、肉体の損傷を修復できない以上、素手での対処にも限界がある。涼子の手は、飛翔体を弾いた時の損傷で、所々出血している。損傷の蓄積は望ましくない。 (ここは涼宮さんの能力に賭けるしかないか。少なくとも今のわたしの能力では対処できないわね。) 「朝倉……大丈夫? その手……」 心配そうに聞いてくるハルヒに、涼子はすかさず誘導を仕掛けた。 「問題ない……って言(ゆ)うたら、嘘になるかな。正直、あんまりよろしくないわ。せめて、飛んで来(き)とぉ物(もん)を止めるか掴むかできれば、それ使って叩き落とせるんやけど……残念ながら、成功のイメージが湧かへんわ。」 【問題ない……って言ったら、嘘になるかな。正直、あんまりよろしくないわ。せめて、飛んで来てる物を止めるか掴むかできれば、それ使って叩き落とせるんだけど……残念ながら、成功のイメージが湧かないわ。】 「成功の……イメージ……」 ハルヒは思案顔で呟く。 (さあ、想像して、涼宮さん。成功のイメージを……わたしが、飛んでくる『何か』を掴む姿を。) 次々に飛来する飛翔体。涼子は両手両足をフル稼働させて処理していくが、次第に処理が飽和していく。 真正面に飛翔体。近い。よけられない。捌き切れない。そう思った時、涼子に見える景色がスローモーションになる。 (……! 見切った!) 涼子は両手で挟むように、飛来する『それ』を掴んで受け止めた。 「……鉄筋!?」 ハルヒが恐る恐る覗き込み、驚いた。飛翔体の正体は、コンクリート構造物の補強に使われる『鉄筋』だった。 涼子の誘導は功を奏した。ハルヒは『成功のイメージ』を作り上げた。それはハルヒが、『そうなること』を願うことに他ならない。かくしてハルヒの望み通りに周囲の環境が書き換えられ、涼子は飛翔体を掴み取ることに成功した。 「こんな物(もん)が次から次へと飛んで来てたんやね……」 【こんな物が次から次へと飛んで来てたのね……】 言い終わらないうちに、涼子は飛んでくる鉄筋を、右手に持った鉄筋で真下に叩き落とした。激しい金属音と共に、足元に転がる鉄筋。素早く涼子は落ちた鉄筋を拾う。両手に鉄筋を持った涼子は仁王立ちになった。 一度成功のイメージを作らせてしまえば、後は話が早い。情報統合思念体との接続は切れたままでも、今はハルヒの情報改変能力の援護を受けている。ハルヒが成功のイメージを思い描く限り、涼子に『負け』はない。涼子は両手の鉄筋を巧みに操り、的確に飛来する鉄筋を叩き落としていく。 (こうやって物質に干渉してきている以上、『奴ら』も何か端末を介して情報操作を行っているはず。そいつを見付けてどうにかしないと。) 涼子は感覚を研ぎ澄まして、周囲の気配を探るが、ここは相手の作り出した空間。かつて涼子が自ら言ったように、この空間は、相手の情報制御下にある。相手の意のままに操れる。通常時ならともかく、今の涼子では、索敵は不可能。ここもやはり、ハルヒの力を借りるしかない。涼子はハルヒに話を振る。 「誰か知らんけど、相手も相当卑怯で臆病やと思わへん? 姿も見せへんで、こそこそ女二人を物陰から狙い撃ちなんて。」 【誰だか知らないけど、相手も相当卑怯で臆病だと思わない? 姿も見せないで、こそこそ女二人を物陰から狙い撃ちなんて。】 「そうやね……確かに、かなりヘタレかもしれへんわ。」 【そうね……確かに、かなりヘタレかもしれないわ。】 ハルヒが話に乗ってきた。涼子は更に話を続ける。 「こういう時、敵は姿を現して、主人公にボコボコにされるべきやと思わへん?」 【こういう時、敵は姿を現して、主人公にボコボコにされるべきだと思わない?】 「主人公……」 「どう見ても、わたしらが主人公やんな? 常識的に考えて。」 【どう見ても、わたし達が主人公じゃない? 常識的に考えて。】 「……確かに、この状況では、悪役はあっさり姿を見破られて、ボコボコにどつき回されるんがオチやわ。」 【……確かに、この状況では、悪役はあっさり姿を見破られて、ボコボコにどつき回されるんがオチだわ。】 涼子は畳み掛ける。 「ほな、わたしらで、その状況を再現してやらへん?」 【じゃあさ、わたし達で、その状況を再現してやらない?】 ハルヒは、100Wの笑顔で答えた。 「うん、それ賛成!」 再び索敵に集中する涼子。今度はハルヒの能力の援護付きで。 「……そこっ!」 言うや否や、涼子は何もない空間に、手にした鉄筋を投げ付ける。メジャーリーガーのバックホーム返球のごとく、一直線に何もないはずの空間を貫く鉄筋。中空で鉄筋が、何かに当たったかのように弾ける。すかさず走り込んだ涼子が、その空間を鉄筋で殴り付ける。しかし何かの力に弾き飛ばされ、涼子は元いた場所まで押し戻された。 「……手応えあり。」 涼子が殴り付けた空間が歪み、人型を取る。 「…………」 絶句するハルヒ。姿を現した攻撃者をしばらく呆然と見つめていたハルヒは、ぽつりと呟いた。 「……ねえ、朝倉。言(ゆ)うても良い?」 【……ねえ、朝倉。言っても良い?】 「どうぞ。」 「……あたしら、こんな奴に苦しめられとったんやな。」 【……あたし達、こんな奴に苦しめられてたのよね。】 「そやね。」 【そうね。】 「……何(なん)か、めっちゃ腹立ってきたんやけど。」 【……何(なん)か、すごく腹立ってきたんだけど。】 「その反応は、たぶん正しいと思うわ。」 「……あたしら襲うより、銀行かどっか行った方がええと思わへん?」 【……あたし達襲うより、銀行かどっか行った方が良いと思わない?】 「ある意味、悪役らしい格好と言えなくもないとは思うかな。」 「……ねえ、朝倉。こいつ、しばいて良い?」 「危ないから、下がっとって。」 【危ないから、下がってて。】 「……どつき回して、蹴り倒して、大阪湾に沈めたろか思うんやけど。」 【……どつき回して、蹴り倒して、大阪湾に沈めたろかと思うんだけど。】 「代わりにやっとくから。何しよるか分からへんから、下がっとって。」 【代わりにやっとくから。何してくるか分からないから、下がってて。】 「……ケツの穴から手ぇ……」 「女の子が『奥歯ガタガタ言わす』とか言わない。それに、女かもしれへんで?」 【女の子が『奥歯ガタガタ言わす』とか言わない。それに、女かもしれないわよ?】 「……女やったら、ヒィヒィ言わす。」 【……女だったら、ヒィヒィ言わす。】 「えっちなのはいけないと思います。」 姿を現した攻撃者は、覆面姿だった。性別は分からない。覆面が完璧だったから。 『奴』は『ストッキング』で覆面していた。 ――変態が、そこにいた。 女子高生二人組(うち一人は、両手に鉄筋を持っている)と、女性用の下着であるストッキングで覆面した人型が対峙する。人間の言葉で言うと、非常にシュールな画だった。 覆面の攻撃者は、無言で手らしきものを涼子に向けて突き出した。途端に、攻撃者の背後に鉄筋が数本出現し、涼子に向けて撃ち出された。涼子は両手の鉄筋で、それらを残らず叩き落とす。人型が間合いを取りながら数度、それが繰り返された。 こちらの攻撃の届かない距離まで離脱して射撃してくることを感知した涼子は、させじと素早く間合いを詰めて、鉄筋で殴り掛かった。その攻撃を、瞬時に手らしきものの中に出現させた鉄筋で防ぐ攻撃者。もう片方の鉄筋で殴りつけようとする涼子に、今度は攻撃者がもう片方の手らしきものに鉄筋を出して殴りつける。涼子は攻撃を中断し、繰り出された攻撃を防がざるを得なかった。 そうして数度、鉄筋での攻防が続いた後、両者はいったん離れて睨み合う。 外見上は、相変わらず睨み合い、時折攻撃者が鉄筋を撃ち出しては、涼子がそれを叩き落とすという状態。しかし、実は先手の取り合いで、両者の間には仮想段階での攻防がものすごい勢いで繰り広げられている。 正にハルヒが望んだ『超能力』が眼前で展開されている状況。しかし、ハルヒはそれに気が付いていなかった。 彼女は口ではいくら不思議を追い求めることを言っていても、心の中ではそのようなものは存在しないと否定する、自己矛盾の塊。眼前に繰り広げられる、超能力者VS美少女女子高生という奇抜な光景を、どこか遠くの景色を眺めているかのような瞳で見つめていた。 ハルヒには、眼前の光景が酷く現実的でないものに思われた。白昼夢を見ているように感じられた。まるで、あの冬休みの合宿で見た白昼夢のように。 「あんまり激しく動いたら、見えるでー……」 【あんまり激しく動いたら、見えるわよー……】 ぼそりと投げやりに呟くハルヒ。彼女は急速に現実感を喪失していった。希薄になる『成功のイメージ』。 ハルヒの呟きが聞こえたわけではないだろうが、まるでそれを合図にしたかのように、睨み合いを続けていた涼子と攻撃者の均衡が崩れた。 攻撃者は同時に撃ち出される鉄筋の数を急増させた。鉄筋による射撃への対処が遅れ気味になっていく涼子。攻撃者は印を切るように、激しく手らしきものを動かすと、今までより高い位置に、膨大な数の鉄筋が出現した。まさしく雨のように大量の鉄筋が涼子に襲い掛かる。とても迎撃できる数ではない。 「朝倉――――!?」 ハルヒの叫び声は、鉄筋が地面に突き刺さる音にかき消された。 「くっ……! だ、だい、じょう……ぶっ……」 涼子は倒れ込んで巧みに鉄筋の直撃をかわしていた。しかし、地面に突き刺さり折れ曲がった鉄筋に阻まれて、身動きが取れない。このまま追撃されれば、今度は持たないだろう。 「大丈夫って……そんなん、全然大丈夫そうに見えへんわ!!」 【大丈夫って……そんなの、全然大丈夫そうに見えないわよ!!】 ハルヒが叫ぶ。涼子は静かな声で答えた。 「大丈夫。あなたがわたしを信じてくれる限り……わたしは負けへん。」 【大丈夫。あなたがわたしを信じてくれる限り……わたしは負けない。】 「そんな都合の良い精神論をしてる場合違(ちゃ)うやろ――――!?」 【そんな都合の良い精神論をしてる場合じゃないでしょ――――!?】 「信じて!」 朝倉の叫びに、ハルヒはぴたりと止まる。 「前にも言(ゆ)うた通り、わたしは、成功のイメージを信じて行動すれば、上手くいく時があると思うんよ。さっきも成功のイメージができたから、現実に成功したし。『信じる』ことって、やっぱりすごい力なんやで。」 【前にも言った通り、わたしは、成功のイメージを信じて行動すれば、上手くいく時があると思うの。さっきも成功のイメージができたから、現実に成功したし。『信じる』ことって、やっぱりすごい力なのよ。】 涼子は、何とか一つずつ動きを阻む鉄筋を引き抜きながら、続ける。 「せやから、涼宮さんが彼女に会いたいって願えば、きっとすぐに会えるって。もしかしたら、今この場に助けに来てくれるかもしれへんで?」 【だから、涼宮さんが彼女に会いたいって願えば、きっとすぐに会えるって。もしかしたら、今この場に助けに来てくれるかもしれないわよ?】 ――それは涼子の『賭け』だった。 このまま追撃を受ければ、そう長くは持たないかもしれない。しかし、ハルヒを上手く誘導して長門有希を復活させられれば、涼子の任務は達成される。長門有希なら、こんな状況でも上手くやってくれるだろう。『あの』長門有希なのだから。 「有希が……助けに来る……?」 「だって、ヒロインのピンチに颯爽と助けに現れるのは、ヒーローのお約束やろ?」 【だって、ヒロインのピンチに颯爽と助けに現れるのは、ヒーローのお約束でしょ?】 顔を赤らめるハルヒ。 「もうそろそろ、現れてもええん違(ちゃ)う? あなたのヒーローが。」 【もうそろそろ、現れても良いんじゃない? あなたのヒーローが。】 そう言った涼子の声に釣られて、有希の姿を思い描くハルヒ。 攻撃者は、先ほどより更に大量の鉄筋を出現させていた。大量の鉄筋が涼子に襲い掛かったその時。 何か硬いものが破壊される音。涼子達の近くの空間にひびが入る。そこから飛び出す、小柄な人影。無言のショートカットが揺れる。人影が手をかざし、何やら早口で呪文のようなものを唱えると、たちまち鉄筋の雨が爆散した。 ――涼子は、賭けに勝った。 ←Report.14|目次|Report.16→
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燕石博物誌 ~ Dr.Latency s Freak Report. ZUN s Music Collection Vol.8 収録曲リスト 他愛も無い二人の博物誌 凍り付いた永遠の都 Dr.レイテンシーの眠れなくなる瞳 九月のパンプキン 須臾はプランクを超えて シュレディンガーの化猫 空中に沈む輝針城 禁忌の膜壁 故郷の星が映る海 ピュアヒューリーズ ~ 心の在処 永遠の三日天下